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給与所得と事業所得の違いは何?開業時に気になる確定申告や税金対策についても説明

                   
投稿日: 2024.07.08
更新日:2024.07.08
                   

勤務医の方は給与所得として収入を得ていますが、自分のクリニックを開業すると事業所得として収入を得ることになります。給与所得と事業所得では、収入の仕組みや税金の計算方法が大きく異なります。開業を検討中の医師にとって、この違いを理解しておくことはとても重要です。本記事では、給与所得と事業所得の具体的な違いから、開業医の平均年収、確定申告の方法、さらには節税対策まで、開業時に知っておきたいポイントを分かりやすくまとめました。開業を考えている方はぜひ参考にしてみてください。

開業医と勤務医の所得の違い

開業医と勤務医では、収入の仕組みや年収の金額に大きな違いがあります。それぞれの特徴を理解することは、将来のキャリアプランを考える上で重要なポイントになるでしょう。ここでは、開業医と勤務医の収入面での主な違いを見ていきます。

 収入の仕組みの違い

開業医と勤務医では、収入が事業所得なのか給与所得なのかという点で大きく異なります。

・開業医は事業所得

開業医の収入は、事業所得として扱われます。事業所得とは、自分で経営するクリニックの収益から必要経費を差し引いた残りの金額を指します。収益を上げるためには経営戦略が求められる一方、工夫次第では高い収入を得られる可能性があるのが特徴です。

・勤務医は給与所得

勤務医の収入は、給与所得になります。所属する医療機関から支払われる給料がそのまま収入となるため、個人の裁量で収入額を変えることは難しいですが、開業医と比べると安定した収入を得られる点はメリットといえます。

 平均年収の違い

厚生労働省の調査によると、開業医と勤務医の平均年収には約1300万円の差があることが分かっています。個人開業医の平均収益は約2750万円ですが、そこから必要経費を引いた額が事業所得になります。一方、勤務医の平均年収は約1470万円です。ただし、これはあくまで平均値であり、個人差が大きいことには注意が必要です。

 経費の使い方の違い

開業医は、収益から必要経費を差し引いた額が所得になるため、経費の使い方次第で所得額をコントロールできます。例えば、学会参加の旅費、医療機器の購入費、業務用車両の維持費など、業務に必要な支出を経費として計上することが可能です。

一方、勤務医は基本的に給与所得のみであり、経費を計上する必要がありません。支出は全て個人の収入から賄うことになるため、経費による節税効果は期待できません。ただし、給与所得にはみなし経費扱いである給与所得控除がついているため、勤務医は経費計上できないから損をしている、というような考え方は正確ではありません。

給与所得と事業所得の違い

給与所得と事業所得は、税法上で大きく異なる所得区分です。医師としてのキャリアを考える際には、それぞれの特徴をしっかりと理解しておく必要があります。ここでは、給与所得と事業所得の主な違いについて、より詳しく見ていきましょう。

 給与所得

給与所得とは、勤務先から支払われる給料や賞与のことを指します。会社員や公務員などがこれに当たります。勤務医の場合、所属する医療機関から受け取る給与が給与所得になります。

・支払い方法

給与所得は、通常毎月決まった日に支払われます。支払い額は、勤務先との雇用契約で定められた金額になります。基本給に加えて、残業代や各種手当などが上乗せされることもあります。

・源泉徴収

給与所得は、毎月の支払い時に所得税と住民税が天引きされます。これを源泉徴収と言います。税額は、給与金額と扶養家族数などに応じて決まります。年末には、1年間の給与総額と源泉徴収税額を記載した「源泉徴収票」が勤務先から交付されます。

 事業所得

事業所得とは、自分で経営する事業から生じる所得のことです。開業医はこれに該当します。事業所得は、事業による収益から必要経費を差し引いた残りの金額になります。

・収入と経費の計算

事業所得を算出するには、まず事業による収益の総額を計算します。開業医の場合、保険診療や自由診療の収入、指導料収入などがこれに当たります。

次に、収入を得るために必要だった経費の総額を計算します。例えば、医療材料費、人件費、医療機器のリース料、クリニックの家賃などが経費になります。交際費や接待費なども、事業に必要な支出として経費計上できます。

特に、設備投資に関する費用は減価償却という形で、数年から数十年に渡って経費に算入できるのが特徴です。高額な医療機器を購入した場合などは、この制度を利用することで節税効果を得られます。

・確定申告

事業所得は、確定申告によって納税額が決まります。1月1日から12月31日までの1年間の所得金額を、翌年2月16日から3月15日までに税務署に申告します。

確定申告では、収益から必要経費を差し引いて所得金額を計算し、そこから各種の所得控除を差し引いて課税所得を算出します。課税所得に税率を掛けて納税額を計算するのが一般的な流れです。

開業医の場合は事業所得の正確な計算と適切な確定申告が求められますが、それが勤務医時代には存在しなかった大きなタスクになります。帳簿づけや領収書の整理など、日ごろの努力が重要になるでしょう。日頃の業務が忙しく確定申告を負担と感じる場合は、税理士に依頼するのも一つの方法です。

開業医の事業収入の種類

開業医の事業収入は、大きく分けて保険診療収入、自由診療収入、雑収入の3つに分類されます。それぞれの収入の特徴を理解することは、クリニックの経営戦略を考える上で欠かせません。ここでは、開業医の事業収入の種類について、具体的に見ていきましょう。

 保険診療収入

保険診療収入は、健康保険を使って診療を行った際に得られる収入です。患者さんが支払う自己負担分と、健康保険組合等から支払われる保険者負担分を合わせたものが、保険診療収入になります。

社会保険診療報酬の算定は、診療報酬点数表に基づいて行われます。例えば、初診料は282点、再診料は72点というように、診療行為ごとに点数が定められています。1点は10円に換算されるので、初診料は2,820円、再診料は720円になります。

これらの点数は、2年に1度の診療報酬改定で見直されます。改定では、医療技術の進歩や社会情勢の変化などを踏まえて、点数の引き上げや引き下げが行われます。開業医は、改定の内容を把握し、自院の経営に与える影響を分析することが重要です。

保険診療収入は自由診療収入や雑収入と比べると安定していますが、診療報酬改定による影響を受けやすいのが特徴です。また、保険診療にはさまざまなルールがあるため、適切な算定と請求事務が求められます。

 自由診療収入

自由診療収入は、保険外診療によって得られる収入です。自由診療とは、健康保険が適用されない診療のことを指します。具体的には、美容医療、予防接種、人間ドック、一部の歯科治療などが該当します。

自由診療では、診療内容や価格設定を医療機関が自由に決めることができます。そのため、地域の需要や競合状況を分析し、適切な価格設定を行うことが重要になります。

自由診療は、患者さんの全額自己負担になるため、十分な説明と同意が必要です。料金が高額になることもあるため、患者さんの理解と納得を得ることが大切です。

近年は、美容医療や予防医療に対する需要が高まっており、自由診療に力を入れるクリニックも増えています。ただし、自由診療は保険診療に比べて患者数が少ないため、安定した収入を得るためには積極的な集患対策が必要になります。

 雑収入

雑収入は、保険診療や自由診療以外の収入を指します。具体的には、医師の応召義務に基づく医療救護活動、産業医や学校医としての活動、各種の委員会出席などによる収入が該当します。

また、クリニックのスペースの一部を、ほかの医療機関や医療関連企業に賃貸することで得られる賃貸収入も、雑収入の一つです。賃貸部分が大きい場合は、安定した収入源になることもあります。

雑収入は、クリニックの規模や立地、院長の専門性などによって大きく異なります。多くの場合、保険診療収入や自由診療収入に比べると金額は少なくなりますが、クリニックの収益の多様化という点では重要な役割を果たします。

開業医の確定申告の流れ

開業医は勤務医と異なり、確定申告をすることで納税額を自分で定めて納付します。ここでは、開業医の確定申告の基本的な流れを、事業所得の算出から控除額の算出までの5つのステップに分けて解説します。

  事業所得の算出

まず最初のステップは、1年間の総収益から必要経費を差し引いて事業所得を算出することです。総収益には、保険診療収入や自由診療収入、そのほかの雑収入が含まれます。一方、必要経費には医療材料費や人件費、医療機器のリース料などが該当します。これらを正確に計算し、帳簿に記録することが重要です。

  課税標準額の算出

次に、事業所得から損失や繰越控除を差し引いて課税標準額を算出します。例えば、不動産所得の赤字があれば事業所得との損益通算が可能です。また、開業直後で赤字の場合は、青色申告をしていれば最長3年間、損失を繰り越して控除できます。

  課税所得の算出

さらに、課税標準額から所得控除を差し引いて課税所得を算出します。所得控除には、医療費控除や社会保険料控除、生命保険料控除などさまざまな種類があります。自身の状況に合わせてどの控除が適用できるかを確認し、漏れなく申告することが大切です。

  税額の算出

課税所得が確定したら、税率表に当てはめて所得税額を算出します。課税所得に応じて5〜45%の7段階の税率が適用されるので、自分がどの税率区分に該当するかを確認しましょう。算出された所得税額に加えて、復興特別所得税と住民税も合わせて納税することになります。

  控除額の算出

最後に、税額控除があれば所得税額からさらに差し引きます。代表的なものとして住宅ローン控除がありますが、そのほかにも寄附金控除や配当控除など、さまざまな税額控除の制度が用意されています。これらを有効に活用することで、納税額を抑えることが可能です。

開業医の節税対策


開業医にとって、税負担を適切に管理することは経営上の重要な課題の一つです。ここでは、節税に有効な制度の利用と、個人事業主から医療法人への移行について解説します。

  節税に有効な制度の利用

開業医が利用できる主な節税制度として、小規模企業共済、経営セーフティ共済、従業員の生命保険加入の3つがあります。これらの制度を有効に活用することで、無理のない範囲で着実に節税効果を得ることが期待できます。


・小規模企業共済

小規模企業共済は、個人事業主が将来の廃業や退職に備えて積み立てる制度です。毎月の掛金は全額が所得控除の対象となるため、節税効果が期待できます。ただし、医療法人化した場合は加入資格を失うことがあるので注意が必要です。

・経営セーフティ共済

経営セーフティ共済は、取引先の倒産により経営が困難になった場合に、積み立てた掛金の範囲内で借入れができる制度です。掛金は全額が必要経費として認められるため、節税につながります。ただし、小規模企業共済と同様に、医療法人は加入できません。

・従業員の生命保険加入

従業員のために生命保険に加入することで、保険料の一部を経費として計上できます。例えば、養老保険などの積立型保険に加入し、死亡保険金の受取人を従業員の家族とすれば、保険料の半分を経費にできます。医療法人の場合は、一定の条件を満たせば保険料の全額を損金算入することも可能です。

  個人事業主から医療法人への移行

個人事業主から医療法人へ移行することも、節税対策の一つとして検討に値します。特に、課税所得が高く利益率も高い場合は、法人化によるメリットが大きくなります。

ただし、法人化のタイミングは慎重に見極める必要があります。例えば、マイホームの購入や子女の教育資金など、多額の個人的支出が見込まれる場合は、十分な資金を貯めてから法人化するのが賢明です。

また、個人事業主の場合は所得分散が難しいため、資産形成の観点からも法人化を検討すべきでしょう。さらに、事業承継を見据えている場合は、医療法人にしておくことでスムーズに手続きを進められます。

一方で、法人化によるデメリットもあります。事務手続きが煩雑になることや、社会保険料の負担が増えること、役員報酬が制限されることなどがあげられます。メリットとデメリットを総合的に勘案し、自身の状況に合った選択をすることが大切です。

編集部まとめ

開業医と勤務医では、収入の仕組みや税金の計算方法が大きく異なります。開業医は事業所得として収入と経費を管理し、節税制度も有効に活用しながら確定申告を進める必要があります。一方、勤務医は給与所得として扱われるため、確定申告の必要がない場合が多いです。

開業医は、事業所得の正確な申告に加えて、節税対策として個人事業主と医療法人のメリット・デメリットを比較検討することも重要でしょう。税務の知識を深め、適切に対応することが、安定した経営につながります。開業を目指す医師の方は、これらの違いを理解して準備を進めていくことが大切です。