AI問診とは?クリニックの業務効率と患者満足度を両立させる仕組みとメリット
業務効率化と患者満足度の向上は、どちらもクリニック経営において重要なテーマです。しかし、業務効率を追い求めると機械的なフローになってしまう、患者さんの満足度を高めるために丁寧に時間をかけて対応すると業務効率が低下するなど、ジレンマを抱える状況に陥ることもあります。
このジレンマを解決する手段として注目されているのが、AI問診です。本記事では、紙ベースでの問診方法における課題とAI問診の仕組み、メリット・デメリットを解説します。
紙ベースでの問診方法における課題

状況によってはデメリットがあります。
1点目は、患者さんへの負担です。病院に来院される患者さんの多くは、心身の健康を損ねている状態であり、問診票を書くことが負担となる作業であるといえます。
2点目は、診察までの待ち時間が長くなりやすいことです。患者さんが問診票を記載し、看護師や受付スタッフがその情報をカルテに転記する時間の分だけ、待ち時間が長くなります。
紙の問診票は、クリニック側にもデメリットが存在します。患者さんが紙の問診票を記載してから診察に至るまでのフローは下記のとおりです。
- 問診票を回収する
- 記入漏れや解読不能がないか確認をする
- 問診票からカルテに内容を転記する
- ボールペンとクリップボードを消毒する
これらのフローには、以下のデメリットがあります。
- 転記に時間がかかる
- 判読ミスや転記ミスが起こる可能性がある
- 紙やインクの管理作業が必要になる
- 消毒作業に時間を要する
既往歴や服薬内容、アレルギーなどの項目での判読ミスや転記ミスは、診療やケアにおいての判断ミスにつながるおそれもあるので、特に注意が必要です。
AI問診の仕組み

紙の問診票が抱える課題を解決する方法の1つが、Web問診です。Web問診にも種類はありますが、一般的には以下の2種類に分類できます。
- 患者さんが自分のスマートフォンやパソコンから回答する
- 院内のタブレットで回答する
予約システムを備えているものや、人工知能(AI)を搭載しているもの、チャット形式で簡単に回答できるものなどが提供されています。
Web問診システムにAIによる分析・推論能力が付与されたシステムが、AI問診です。AI問診は、一人ひとりの患者さんの回答に応じてアルゴリズムが必要な質問を選択して表示します。
このアルゴリズムは、機械学習によって事前にシステムの学習に使用された膨大なデータをもとに、関連性の高い内容を導き出すように構築されています。
例えば、頭痛が主訴の方には「いつからなのか、どのような痛みなのか、光や音過敏はあるのか」といった質問をして、鑑別診断に必要な情報を収集します。
また、AI問診システムには、電子教科書と連携しているシステムもあります。問診回答に基づいて、鑑別すべき疾患の列挙や推奨する検査・治療などが表示され、医師の診察補助として使用できます。
多くのAI問診は電子カルテとの連携が可能です。
AI問診は患者さんの症状や経過を聞き取るだけでなく、電子カルテとの連携によってクリニックの業務を効率化できます。連携によって、患者さんがスマートフォンやタブレットで入力した問診内容から自動でカルテの下書きを生成できるシステムなら、転記作業の手間や入力ミスを減らすことができます。
また、診察前に患者さんの情報が整理されていれば、より質の高い医療提供につなげることもできるでしょう。
AI問診のメリット・デメリット

AI問診の導入により業務効率が向上することで、下記のようなメリットが得られます。
- 患者さん満足度の向上
- ミスの削減
- スタッフの業務負担の軽減
- コストの削減
なかでも、特に大きなメリットが患者さん満足度の向上です。
AI問診の導入により、受付や看護師スタッフによる確認・転記作業にかかる時間が削減され、患者さんのサポートに割ける時間を確保できるようになります。1日の患者さん数が30人、患者さん一人あたり10分を要していたとすると、合計で5時間分もの作業時間を削減できる計算です。
この時間を、患者さんへの案内やケアなどのコミュニケーションに使えるようになります。
厚生労働省の調査によると、医師による診察時間が3分未満の場合に「満足」と回答した患者さんは全体の33.7%でしたが、3分以上10分未満では46.6%まで上昇しています。
そのため、電子カルテの下書きを作成可能なAI問診の導入で医師によるカルテ作成の時間を削減できれば、医師が患者さんと向き合う時間を増やすことができ、患者さんの満足度向上が期待できます。
参照:『受療行動調査の概要』(厚生労働省)
患者さんにとって大きなメリットは下記の2点です。
- 問診票に回答する負担が軽減される
- 待ち時間が短縮される
スマートフォン対応のAI問診であれば、時間や場所を問わず患者さんが自分のタイミングでカスタマイズされた問診に無理なく回答することができます。対話形式のAI問診では、チャットをしている感覚で患者さんが伝えたい内容を回答できるでしょう。
また、初診時以外はすでにデータが保存されているため、氏名、生年月日、住所などの基本情報を毎回記入する必要がなく、問診の回答にかかる負担も軽減されます。
患者さんが問診票に回答する時間やスタッフによる転記の時間が減り、待ち時間の短縮にもつながります。
紙問診からAI問診に切り替える際は、メリットだけでなくいくつかのデメリットもあります。
患者さん目線では、デジタルデバイスを所有されていない方や、ご高齢で操作に不慣れな場合は、紙の問診票よりも回答に時間を要する可能性があります。
また、AIの技術的な限界に対する理解も必要です。AIの精度は学習させたデータの質や量に依存します。そのため、まれな疾患や非特異的な症状の場合に、適切な質問や鑑別が提示されない可能性があります。
クリニック目線では、システム導入に伴うスタッフの業務フローの変更やマニュアル整備、運用費の負担もデメリットといえるでしょう。
AI問診を導入する際は、次の点に注意しましょう。
- システムの使いやすさ
- 既存システムとの相性
- セキュリティ体制の強化
システムの使いやすさはクリニック側の目線だけでなく、患者さんが操作に戸惑わない設計かどうか、患者さん目線でも確認するのがポイントです。個人情報を扱うため、クリニックのセキュリティ対策が十分かどうかの検討も欠かせません。
導入前にはスタッフへの説明や操作トレーニングを行い、現場で混乱が起きないよう備えることも重要です。スマートフォンやタブレットの操作に不慣れな患者さん向けやシステム障害など緊急時に備え、紙の問診票も選択できるようにしておくのもおすすめの方法です。
編集部まとめ
AI問診とは、従来の紙問診をただデジタルに置換したツールではありません。クリニックの課題を抽出し、適したシステムを選ぶことは患者さんにもクリニックにもメリットとなります。
患者さんにとって、AI問診は院内滞在時間の短縮などのメリットがあるツールです。医師にとっても、膨大な学習データをもとにした鑑別診断や検査、治療の選択肢を提示する診療補助ツールとなります。
手動で行っていたフローの一部をAIが担うことで業務効率が向上するので、業務効率化と患者さん満足度の向上の両者を叶える問診体制を構築するために、AI問診の導入を検討してみてはいかがでしょうか。




