クリニックの経理業務を効率化する方法|DXツールや効率化推進の際の注意点とは
近年、インボイス制度や電子帳簿保存法の改正など、医療機関を取り巻く会計ルールが相次いで変化し、クリニックの経理業務においても効率的な対応が急務となっています。しかし実際には、会計処理をはじめとしたバックオフィス業務の多くがいまだアナログ中心だというクリニックも少なくないでしょう。
そこで本記事では、クリニックにおける経理業務の内容や抱えがちな課題を整理し、業務効率化に役立つDXツールと具体的な改善方法、さらに効率化を進める際の注意点について解説します。
クリニックの経理業務とは

クリニックの経理業務は、日々の会計処理から年度末の決算や税務まで幅広く、経営を支える重要な業務です。業務は、期間別に大きく日次業務と月次業務、年次業務の3つに分けられます。
日次業務は、クリニックの日々の収支を正確に記録、精算する基礎的な業務です。具体的な業務内容は下記のとおりです。
- レジ締め処理
- 入金確認
- 会計ソフトへの仕訳処理
- レセプト請求金額の確認
- 未収金の確認
このなかで、特に時間を要するのがレジ締め処理と会計ソフトへの仕訳入力です。
月次業務は下記のとおりです。
- レセプト請求処理
- 売上や費用の集計
- 経費の集計
- 給与計算と振り込み
- 月次決算締め作業
- 月次試算表の作成(会計ソフトによる自動作成)
- 信憑資料の整理と保管
- 税理士や管理職への月次報告書の提出
月次業務のなかで大きなウェイトを占めるのは、レセプト請求処理と給与計算です。レセプトコンピューターや給与計算ソフトが導入されている場合はある程度自動化されているものの、チェック作業は欠かせません。
年次業務は、年度末に行う決算処理や財務諸表の作成、税務申告書の作成と税務申告、翌年度の予算策定が中心です。これらに加え、医療機関特有の診療報酬や補助金、医療法人の減免制度への対応も求められます。
クリニックの経理業務における課題

クリニックの経理担当者は、日々の会計業務においてさまざまな課題を感じているでしょう。ここでは、特に中小規模の医療機関で発生しやすい4つの課題を解説します。
アナログ管理が多い
経理を含むオフィス業務では、手作業でのデータ入力や紙の書類管理に頼っているケースが少なくありません。例えば、領収書や請求書を紙で受け取り、それらを会計ソフトに一つ一つ手入力しているといった状況です。
こうしたアナログ業務が多い職場では、作業に時間がかかるだけでなく入力ミスのリスクも高まります。また書類を紙で保管していると情報検索に手間取るため、経営状況を迅速に把握する妨げにもなります。職場全体でデジタル化が進んでいないと、業務フローを刷新しにくく、業務改善が進みにくいという悪循環に陥りがちです。
ベテラン担当者や事務長などに依存しやすい
経理業務は専門性が高いため、特定のベテラン担当者がノウハウを抱え込むなど業務が属人化しやすい傾向があります。例えば、税務申告の手順や会計システムの操作方法を1人の事務長だけが把握しており、その人が不在になると残りのスタッフでは対応できない、といったケースが考えられます。
属人化が進むとほかのスタッフがフォローできず、業務が滞るリスクがあります。また、特定のスタッフしかわからない状態では、万一ミスや不正が起きても組織として気付きにくく、内部統制上の問題にもつながります。
このように、特定のスタッフに頼った経理運営は、非効率なだけでなくクリニック経営全体のリスクにもなるため、早期に解消すべき課題であるといえます。
経営数値の可視化が難しい
クリニックでは、院長が診療やさまざまな雑務に追われ経営面の管理が後回しになってしまうことも少なくありません。
会計データが紙や表計算ソフトに点在している場合、リアルタイムで財務状況を把握しにくいという問題点もあります。
経営数値を可視化できず、管理が後回しになる状態が続くと、気付かぬうちに収支が悪化したり機会損失を招いたりするリスクが高まります。経営数値をタイムリーかつ正確に可視化できていない状況は、クリニックの健全な意思決定を妨げる大きな課題となり得るといえます。
給与計算が煩雑になりやすい
クリニックの規模によって医師や看護師、医療事務などスタッフの勤務形態は多様であり、給与計算は煩雑になりやすい業務です。特に夜間診療を行っているクリニックでは夜勤手当やオンコール手当など医療機関特有の手当が発生し、給与計算が複雑になります。
手作業での計算はミスの原因になりやすく、給与の誤りはスタッフの不信感や労務トラブルにも直結するため注意が必要です。
給与計算は、毎月決まった短期間で処理しなければならない点も担当者に負担がかかりやすい要因です。
【クリニックの経理業務】効率化する方法とDXツール

さまざまな課題を解決し、経理業務を効率化するには、デジタル技術の活用(経理DX)と業務フローの見直しが欠かせません。
ここではクリニックの経理担当者が活用できる主なDXツールと、日次・月次・年次それぞれの業務を効率化する方法について解説します。
クリニックの経理業務を効率化できるDXツール
クリニックの経理業務を効率化できるDXツールには、次のようなものがあります。
- レセプトコンピューター
- 会計システム
- 税務申告システム
- 経費精算システム
- 給与計算システム
- 勤怠管理システム
クリニックの経理業務は入力ミスや確認漏れが生じやすい作業も多く、スタッフの負担が大きくなりがちです。上記のようなDXツールを活用することで、ミスを防ぎながら業務を効率化できます。
例えば、レセプトコンピューターと連携可能な会計システムを導入すると、仕訳作業にかかる時間を削減可能です。税務申告や経費精算、給与計算などのシステムを会計システムと連携させると、さらに作業量を削減できることがあります。会計システムとそのほかのシステムの自動連携ができない場合でも、CSVデータなどのインポートが可能なシステムを選ぶと記帳、仕訳業務がスムーズに進みます。
日次業務を効率化する方法
日々の経理処理をスムーズに進める方法は以下のとおりです。
| 方法 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 入出金管理の自動化 | ◦銀行口座と会計ソフトを連携し、入出金明細を自動取込 ◦窓口収入のキャッシュレス化も進めることで売上データの自動連携も可能 | 手動記帳削減、入力ミス防止、残高照合の効率化 |
| 領収書・伝票のデジタル管理 | ◦スキャンや写真で電子化してOCRで文字データ化 ◦クラウド保存を活用 | 入力作業削減、検索性向上、証票紛失防止 |
| レセプト請求業務のシステム化 | ◦レセコンで診療記録から自動請求データ作成 ◦日々エラー確認と修正 | 請求漏れ防止、未収金・返戻対応削減、二重入力防止 |
| 小口現金管理の簡素化 | ◦小口出納帳を電子化しリアルタイム入力 ◦プリペイドカードなどで現金支出を減らす方法も有効 | 記録漏れ防止、残高不一致・不明金防止 |
日次業務は毎日のルーティンで発生するため、効率化できれば大きな時間とコスト削減につながります。
月次業務を効率化する方法
以下に毎月の経理処理を円滑に行うためのポイントを挙げます。
| 方法 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 給与計算のシステム化・アウトソース | ◦クラウド給与計算ソフトで自動計算・電子明細配布 ◦医療特有の手当設定も可能 ◦社労士や代行サービスへの委託も有効 | 作業時間短縮、計算ミス防止、法改正対応の安心感 |
| 請求、支払業務をまとめて処理 | ◦買掛金管理システムや支払管理機能で請求書データを一元化 ◦電子請求書受領、インターネットバンキングの一括振込活用 | 入力手間削減、支払漏れ防止、管理負担軽減 |
| 月次決算のルーティン化 | ◦クラウド会計ソフトで月次試算表・損益計算書を自動生成 ◦毎月の経営指標を確認 | 経営状況の早期把握、迅速な改善策立案、決算期の負担軽減 |
| 診療報酬の未収・誤差チェック | ◦レセコンの返戻・未収リストを活用し、請求漏れや未収金、入金差異を毎月確認・対応 | 収益回収率向上、経営リスク低減、未収金の早期解消 |
月次業務は期間が1ヶ月と短く、かつ重要度の高い処理が多いため、効率化の効果も大きく表れます。
年次業務を効率化する方法
年度末および年度初めの経理業務を円滑に行うためのポイントは、以下のとおりです。
| 方法 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 決算作業の平準化・早期化 | ◦日次・月次で帳簿を正確に締め、四半期ごとに棚卸・固定資産確認 ◦減価償却などを事前シミュレーション入力 | 決算期の業務集中回避、修正対応の早期化、節税策検討の余裕確保 |
| 電子申告・電子帳簿保存の活用 | ◦e-Taxで法人税・消費税を電子申告 ◦電子帳簿保存法対応の運用で請求書・領収書をデータ管理 | 提出・保管作業の削減、法令遵守、書類検索性向上 |
| 来期の経営計画をデータで策定 | ◦会計ソフトやBIツールで財務分析・収支予測を行い、複数シナリオで予算を作成 | 客観性ある経営判断、設備投資や人件費増を織り込んだ実効性の高い計画 |
年次業務は決算や税務など重要業務が集中するうえ、正確性も求められます。作業時間短縮やミス防止による人件費削減など、効率化による効果が大きくなりやすいので、取り入れられる方法がないか検討してみましょう。
【クリニックの経理業務】効率化を推進する際の注意点

最後に、クリニックで経理DX・業務効率化を進めるにあたって留意すべきポイントを解説します。新しいツールや仕組みを導入する際には、以下のポイントに注意し、定着と効果をさらに高めましょう。
電子帳簿保存法に対応した仕組みを構築する
経理のデジタル化を進める際は、電子帳簿保存法への対応が必須です。
電子帳簿保存法では電子取引データ(PDF請求書など)の電子保存が義務化されているため、タイムスタンプ付与や検索機能など法要件を満たす会計システムとクラウドストレージ導入を検討する必要があります。
領収書のスキャン時に自動で改ざん防止措置を行うツールを使えば、ペーパーレス化と法令遵守を両立できます。さらに、保存ルールや承認記録など社内規程の整備も必要です。
システム選定時には必ず電子帳簿保存法対応状況を確認し、適法な運用体制を構築しましょう。
全スタッフのスキルの均一化を意識する
新しい会計ソフトや経費精算システムは、経理担当者全員が使える状態にすることがポイントです。
属人化を避けるためには、知識を共有し、誰でも基本処理ができる体制を整えることが重要なので、経理担当者だけでなく、事務長や院長補佐など関連スタッフ全員に対して操作トレーニングを行い、マニュアルを整備しましょう。
導入を機に、経理データの扱い方や財務指標の見方を学ぶ場を設けると、現場への定着が早まります。
現行の業務フローを可視化してから見直す
新しいツールを導入しても、非効率な業務フローのままでは効果は限定的です。まずは現行の経理業務を可視化し、手順や所要時間、ボトルネックを洗い出しましょう。
例えば、請求書受領から支払完了までのステップ数、二重入力や手作業になっている箇所を明確化します。そのうえで、無駄な承認プロセス削減や入力項目の統廃合など業務自体を改善し、必要に応じて役割分担も見直します。
会計ソフトや税理士など外部パートナーとの連携を意識する
クリニックの経理効率化を進めるには、院外リソースとの連携も重要です。
クラウド会計ソフトを使えば、税理士とデータをリアルタイムで共有でき、資料のやり取りを省略して月次レビューや決算対応を迅速化できます。常に新しいデータをもとに議論できるため、経営判断のスピードと精度も向上するでしょう。
また、給与計算や請求書発行など特定業務を外部委託する場合も、クラウドを介してデータアクセスを可能にしておけば、委託先との作業がスムーズです。経理DXに詳しい税理士からシステム導入の助言を受けることも有効です。
外部パートナーとのシームレスな連携を構築することで、効率的な経理運営が可能になります。
ツール同士の連携を確認してツールを選定する
DXツール導入時は、システム間連携の可否が重要です。
会計ソフトや給与計算、経費精算などが連携できれば、勤怠データから給与仕訳、経費精算結果まで自動で会計帳簿に反映でき、二重入力を防げます。一方、連携できないシステムを組み合わせると、同じデータを複数回入力する手間やミスが増え、効率化どころか業務負担が増加してしまうこともあります。
ツール選定時には、API連携や他社ツールとの互換性を必ず確認しましょう。
特に会計ソフトは経営データの中核を担うため、給与や請求、在庫、患者さんの情報など周辺システムとの接続性が高い製品を選ぶことで、クリニック全体の業務効率を向上できます。
まとめ

クリニックの経理効率化は、事務作業削減だけでなく経営の見える化と安定運営につながる重要な施策です。経理DXを進めれば日々の負担が軽減され、スタッフは医療サービスや患者さん対応に集中できます。
数字をリアルタイムに把握・分析できれば、的確な経営判断を下すことにつながり、患者さんへのサービスの質向上や設備投資の適切な判断など好循環を生み出せます。
経理担当者だけでなくスタッフ全員で業務効率化を推進することで、効率化の恩恵が院内全体に広がります。
経理の効率化と高度化はクリニック経営の土台を強化するので、体制を見直し、スマートな経営を目指してみてはいかがでしょうか。




