クリニックにおける業務効率化の手順や注意点、ツールやシステムを解説!
クリニックの業務効率化はスタッフの負担軽減だけでなく、患者さんの満足度向上など多くのメリットがあります。特に医療業界では慢性的な人材不足が問題となっており、限られた人的リソースを有効活用するためにも業務効率化は欠かせません。
本記事では、クリニックで業務効率化が重要な理由や進める手順、具体的なツール・システム、導入時の注意点を解説します。
クリニックで業務効率化が重要な理由

クリニックにおいて業務効率化が重視される背景には、主に以下の理由があります。
限られた人数で安定した運営を実現するため
日本の医療現場では深刻な人手不足が続いています。厚生労働省職業安定局『雇用政策研究会報告書』によれば、2040年頃には医療・福祉分野で約96万人の人材が不足するとされており、クリニックも例外ではありません。
限られたスタッフで安定した運営を行うには、一人ひとりの生産性向上が必要です。今後の労働人口の減少や高齢化による医療ニーズ増加により、人手不足は中長期的にも解決がより難しい課題であるといえます。
そのため、業務効率化によって少人数でも安定して運営できる体制を整えることが、クリニック経営の安定に直結します。
患者さん対応や診療の質を上げるため
クリニックでは医師や看護師、受付スタッフがさまざまな雑務に追われ、本来の業務に十分な時間を割けないことがあります。業務を効率化してスタッフの負担を減らせば、その分それぞれの業務に集中できる時間が増え、患者さん対応や診療の質など医療サービスの質向上につながります。
待ち時間などの負担を減らし、満足度を高めるため
日本医師会の2024年の調査では、外来患者さんの約4割が待ち時間に不満を感じていると報告されており、患者さんにとって待ち時間がストレスとなっていることがわかります。業務効率化によって受付から診療までの流れをスムーズにし、待ち時間を短縮することは患者さんの満足度向上に直結します。
参照:『第8回 日本の医療に関する意識調査』(日本医師会総合政策研究機構)
医療DXやオンライン化に対応するため
近年は医療分野でもDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が叫ばれています。オンライン予約や電子カルテ、遠隔診療などデジタル技術の活用は現代の経営戦略の一つです。
効率化の観点でも、紙のカルテ管理や電話対応などアナログ業務をデジタル化することで業務時間の短縮にもつながります。クリニックが時代の流れに乗り遅れず競争力を維持するためにも、業務のオンライン化あるいはシステム化への対応は重要です。
クリニックの業務効率化を進める手順

クリニックで業務効率化を図る際は、現状の把握から段階的に改善策を講じることが大切です。
①現状の業務フローを洗い出す
まずはクリニックの現在の業務プロセスを書き出し、見える化します。
患者さんが来院してから会計を終えるまでの一連の流れを時系列で示し、スタッフの動きも含めて把握しましょう。どの業務にどれくらい時間がかかっているか、誰が担当しているかを整理することで、業務ごとの負担や重複、滞りが明らかになります。
②課題や非効率なポイントを明確にする
洗い出した業務フローをもとに、どの部分に課題があるかを分析します。
製造業で使われる”ムリ・ムダ・ムラ”の観点を取り入れ、作業に無理が生じていないか(ムリ)、無駄な手間や待ちが発生していないか(ムダ)、対応にばらつきがないか(ムラ)をチェックしてみましょう。
こうしたフレームワークで現状を評価することで、優先的に改善すべき非効率ポイントが浮かび上がります。例えば、紙の書類管理に時間を取られている、ピーク時に受付スタッフ一人で電話対応と窓口対応をかけ持ちしている、特定スタッフに業務が属人化しているなど、問題点や非効率なところをリストアップします。
③改善の優先順位を決める
課題を洗い出せたら、次に改善策の優先順位付けを行います。
限られたリソースで効率化を進めるため、効果が大きいもの、あるいは緊急性が高いものから着手するのが基本です。
改善項目ごとに導入コストや見込まれる効果を比較し、短期で実施すべきものと中長期で検討するものを仕分けして改善計画を立てることで、着実に業務効率化を推進できます。
④ツールやシステムの導入を検討する
具体的な改善策として、有効なITツールやシステムがあれば積極的に活用を検討します。課題に応じて適切なデジタルツールを選ぶことが重要です。
例えば、電話応対の負担軽減が課題であれば予約システム導入、紙の書類管理に時間がかかっているなら電子カルテや文書のデジタル化が有効でしょう。
ツール導入時は、現場の運用フローへスムーズに組み込めるか、スタッフが使いこなせるか、自院の規模やニーズに合ったシステムかを考慮しながら、複数の製品を比較検討しましょう。
⑤ツールやシステムの運用開始後も定期的に見直す
新しい仕組みを導入して終わりではなく、運用しながら課題がないか定期的に振り返ることが大切です。導入によってどれだけ業務時間が短縮できたか、スタッフと患者さんの反応はどうかを確認し、必要に応じて設定の変更や運用フローの改善を行います。
特に、患者さんからの意見やフィードバックを定期的に集め、使いづらい点はないかチェックしましょう。例えば、予約システム導入後に予約枠設定を調整したり、自動精算機の案内表示を改善したりといった微調整で、さらに利便性を高められます。継続的なPDCAサイクルで業務効率化を推進しましょう。
クリニックの業務効率化が期待できるツールやシステム

では、クリニックの業務効率化に役立つ主なツールやシステムにはどのようなものがあるのでしょうか。ここからは、業務領域別にツールやシステムを解説します。
受付関連業務
受付業務の効率化は、患者さんの満足度向上とスタッフの負担軽減に直結します。
| ツール・システム | 概要 | 主な効果 |
|---|---|---|
| オンライン予約システム | 患者さんがWebやスマートフォンから24時間予約可能 | ◦電話対応の削減 ◦人件費の削減 ◦待ち時間の短縮 |
| 自動受付機・発券機 | 再来患者さんが診察券を通すだけで受付可能 | ◦待ち時間の短縮 ◦感染予防効果 |
| 公式サイトへのFAQ掲載、チャットボットの導入 | 定型質問の掲載や自動応答 | ◦問い合わせ電話の削減 ◦業務の中断が減少 |
予約や受付処理の自動化は診療の流れをスムーズにでき、患者さんにとっては待ち時間短縮に、スタッフにとっては業務効率化につながります。
診療関連業務
診療の質を保ちながら効率化を図るには、電子カルテやAI技術、オンライン診療、電子処方箋などの活用が有効です。
| ツール・システム | 概要 | 主な効果 |
|---|---|---|
| 電子カルテシステム | カルテ情報をデジタル管理(予約・会計機能を一体化した多機能型もある) | ◦リアルタイムな情報共有 ◦記入ミスの防止 ◦保管スペースの削減 ◦レセプト効率化による事務負担軽減 |
| AI問診・AI文章化システム | 診察中の会話を録音・AIで自動テキスト化しカルテ化 | ◦入力負担の大幅削減 ◦情報共有の迅速化 ◦問い合わせ対応の効率化 |
| AI画像診断補助システム | 画像をAIが解析し病変候補を検出 | ◦診断精度の向上 ◦見落とし防止 ◦読影の効率化による医師負担の軽減 |
| オンライン診療システム | ビデオ通話で遠隔診療や服薬指導を実施 | ◦通院負担の軽減 ◦予約制による診療効率化 ◦患者さんの満足度向上 |
| 電子処方箋システム | 医師が処方箋を電子データとして発行し、薬局とオンラインで共有 | ◦処方箋の印刷・保管作業の削減 ◦転記ミス防止 ◦薬局での待ち時間短縮 ◦処方履歴管理の効率化 |
これらは医師やスタッフの事務作業を減らすだけでなく、診療精度や患者さんの満足度の向上にも寄与します。
会計関連業務
会計業務の効率化は、患者さんの待ち時間短縮、スタッフの事務負担軽減や現金管理の安全性向上にもつながります。
| ツール・システム | 概要 | 主な効果 |
|---|---|---|
| レセプトコンピュータ(レセコン) | 診療報酬請求(レセプト)業務をコンピュータで管理・作成するシステムで、電子カルテと連動可能 | ◦請求業務の正確化と迅速化 ◦事務作業の削減 ◦請求漏れ防止 |
| 自動精算機(セルフレジ) | 患者さんが自分で診療費を支払える機械で、金額計算から釣銭受け渡しまで自動化 | ◦待ち時間の短縮 ◦スタッフの負担軽減 ◦会計ミスの防止 ◦感染リスクの低減 ◦人件費の削減 |
| キャッシュレス決済の導入 | クレジットカードやQRコード決済に対応 | ◦支払い手続きの迅速化 ◦患者さんの利便性向上 ◦レジ締め作業の効率化 ◦防犯性の向上 |
特に自動化やキャッシュレス化、レセコン導入は、正確かつ迅速な会計処理に有効です。
そのほかの業務
診療や会計以外にも、日常の管理業務や事務作業の効率化につながるツールやサービスがあります。
| ツール・システム | 概要 | 主な効果 |
|---|---|---|
| 医療事務のアウトソーシングサービス | レセプト作成や経理などの事務作業を外部の専門サービスに委託 | ◦コスト削減 ◦業務品質の向上 ◦人件費の削減 |
| 勤怠・シフト管理システム | 勤怠シフト作成や勤怠管理をクラウドで行う | ◦シフト作成の効率化 ◦人件費の可視化 |
これらを導入することで、スタッフがコア業務に集中できる環境を作りやすくなります。
クリニックの業務効率化を推進する際の注意点

効率化の施策を導入する際には、いくつか留意すべきポイントもあります。以下の点に注意して進めましょう。
スタッフが混乱しないよう研修を実施する
新しいツールやシステムを導入する際は、事前にスタッフへの教育と研修をしっかり行い、運用体制を整備してから開始することが重要です。準備不足のまま新システムを投入すると、かえって混乱を招きかねません。
マニュアルを作成して共有し、操作手順やルールを標準化しましょう。マニュアル化により新人教育もスムーズになり、業務の属人化解消にもつながります。スタッフ全員が新しい仕組みを正しく理解し使いこなせるようになるまで、丁寧に研修期間を設けることが大切です。
効率化だけではなく患者さんの利便性も意識する
業務効率化の施策は患者さんにとっても便利になることが理想です。例えば、自動精算機を導入する場合、高齢の患者さんでも戸惑わず利用できるよう配慮が必要です。
機械操作に不慣れな患者さんにはスタッフが随時サポートする体制を整えるなど、患者さん目線での利便性向上も忘れないようにしましょう。導入後は患者さんの声を集めて使い勝手を検証し、必要なら画面表示の改善や案内スタッフの配置などで対応します。
効率化と患者サービスのバランスを取りながら進めることが、クリニックの評価向上につながります。
費用対効果を検討する
新しいシステム導入には初期費用やランニングコストがかかります。本体価格だけでなく設置工事費、保守費用、ソフト更新料などのコストも考慮し、投資に見合う効果が得られるか、長期的な視点で費用対効果を慎重に検討しましょう。
高額なシステム導入は経営負担になりかねないため、補助金の活用も検討しつつ、余裕のある予算計画を立てるのがポイントです。
導入後も効果測定を行い、投資回収にどれくらいの期間がかかるかを評価しましょう。費用面の検討を怠らず、真にコストパフォーマンスの高い効率化策を選ぶことが大切です。
まとめ

クリニックにおける業務効率化は、スタッフと患者さんの双方に多くのメリットをもたらす重要な取り組みです。スタッフの負担軽減によって働きやすい職場環境が実現し、離職率低下や人件費削減など経営的な効果も期待できます。一方、待ち時間短縮やサービス向上により患者さんの満足度が高まれば、クリニックの評価向上や患者数増加といった好循環が生まれるでしょう。
業務効率化を進める際は、現状分析から始めて優先度を見極め、適切なツール導入とスタッフ教育を行うことが大切です。クリニックのスマートな運営体制づくりに取り組んでみてください。




