クリニックの受付業務を効率化するポイントは?必要性や重要なツールを解説
患者さんが来院して最初に接する受付での対応が、クリニック全体の印象を左右するといっても過言ではありません。
しかし、受付スタッフはさまざまな事務処理も行っており、業務が多岐にわたると患者さん対応と両立させるのが困難になることもあります。
本記事では、クリニックの受付業務が抱える課題と、受付業務の効率化がもたらすメリット、業務効率化を実現するポイントを詳しく解説します。
クリニックにおける受付業務の課題

受付スタッフの業務は患者さんの受付だけでなく、電話応対や予約管理、保険証確認、問診票の記入、会計、レセプト業務など広範囲におよびます。このため、以下のような課題があります。
紙ベースの業務が多い
多くのクリニックでは、問診票や紹介状、検査結果、同意書などを紙で運用・管理しています。このため、受付では患者さんへの説明や記入内容の確認、そしてその情報を電子カルテなどへ手入力する作業が発生します。
紙の書類は、紛失のリスクがあるだけでなく保管スペースの確保も必要です。また、過去の情報を探し出すのに時間がかかったり、手入力によるミスが発生したりと、業務効率を低下させる要因となります。
紙での問診票の場合、患者さんにとっては待合室で問診票を記入する手間や待ち時間が発生します。
事務作業と患者さん対応の両立が難しい
受付スタッフは、患者さんへの対応と並行して電話応対やデータ入力、書類整理といった事務作業をこなさなければなりません。特に外来が混み合うピーク時には、両方の業務が同時に発生します。
丁寧な患者さん対応を心がけたくても、事務作業に追われて十分な時間を確保できなかったり、慌ただしい雰囲気が患者さんに伝わってしまったりすることでサービスの質が低下し、患者さんの不満につながることもあります。
業務が多岐に渡ることにより属人化しやすい
多岐にわたる受付業務に関するマニュアルを用意していても、一つひとつの業務における細かな対応方法は経験を通じてしか習得できなかったり、人によって異なったりするケースがあります。
これにより、この業務はこの人にしかできないという属人化が発生しやすくなり、特定のスタッフに業務負荷が集中したりスタッフの不在時に業務が滞ったりするリスクが生じます。
スタッフの教育と定着が難しい
新しく入ったスタッフが複雑で多岐にわたる受付業務を覚え、患者さんそれぞれの状況に応じて臨機応変に対応するためには多くの時間を要します。教育期間中は既存スタッフの負担も増加し、受付スタッフ全体の業務効率が低下してしまいます。
負担が大きいことが原因で既存スタッフが退職したり、新しく入ったスタッフがすぐに辞めてしまったりといったスタッフの入れ替わりが激しくなると、常に人手不足と新人教育に追われる状況が生まれます。
これにより業務の属人化がさらに深刻化し、採用コスト、教育コストが継続的に発生する悪循環に陥ってしまいます。
クリニックの受付業務効率化のメリット

受付業務の効率化は、単なる作業時間の短縮にとどまらず、クリニック経営全体に大きなメリットをもたらします。ここではどのようなメリットがあるのか具体的に解説します。
人件費の削減
受付業務のデジタル化・自動化により、スタッフが行っていた定型的な手作業を効率化できます。
例えばWeb予約システムを導入することで電話応対の頻度が減り、自動精算機の設置で会計がスムーズに進めば、電話応対と会計作業を行うために必要な時間を削減でき、ほかの業務に専念できる時間が増えます。
業務の標準化が進むことで新人スタッフの教育期間短縮や業務の安定性が高まることも期待できるでしょう。
スタッフ一人当たりの生産性が向上し、クリニック経営で大きな割合を占める人件費を抑えることができます。
定着率の向上
煩雑な業務によるストレスは、スタッフの離職率を高める原因となります。医療DXツールを導入して業務を効率化すれば、スタッフはデータ入力や書類整理に追われるばかりでなく、余裕を持って業務を進められるようになります。スタッフの仕事に対する満足度向上によって定着率が高まれば、経験を積んだスタッフが定着してサービスの質もさらに向上します。
患者さん満足度の向上
厚生労働省の令和5年調査では、診察までの待ち時間に不満を抱く外来患者さんが25.5%と報告されています。受付業務の効率化で診療の流れがスムーズになれば、待ち時間短縮といった、患者さんの利便性向上につながります。
また、受付業務の効率化が患者さん対応の質向上につながる点もメリットです。
業務効率化によって受付スタッフが患者さん一人ひとりと向き合う時間を十分に確保できれば、初診の方への丁寧な案内、体調不良の方への気づかい、高齢の患者さんへのサポートなど、きめ細やかなサポートや心のこもった対応ができるようになります。その結果、患者さんの満足度が向上し、クリニックの信頼性やリピート率を高めることにつながります。
参照:『令和5(2023)年受療行動調査(確定数)の概況』(厚生労働省)
クリニックの受付業務効率化を実現するためのポイント

受付業務の効率化を進めるには、計画的なアプローチが大切です。以下では、受付業務の効率化を成功させるためのステップとポイントを詳しく解説します。
想定される業務フローの文書化と見直し
まずは、患者さんが来院してから帰るまでの流れを洗い出し、誰が、いつ、どのような作業を行うのかなどの業務フローを文書化します。
この際、予約受付から保険証確認、問診票記入、診察券発行、会計処理、次回予約まで、すべての工程を時系列で整理することが重要です。フローを可視化することで現状を正確に把握しやすくなり、どのようなツールや改善策が必要なのかが見えてきます。
デジタル化できる業務とそうでない業務の切り分け
業務フローが明確になったら、そのなかでデジタル化できる業務とそうでない業務を切り分けます。デジタル化できる業務は主にデータ処理やルーティンワークに関わるものです。具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 電話での予約受付・変更
- 紙の問診票記入・取り込み
- 保険証情報の入力
- 患者さんの情報の入力
- 会計・精算
一方で、デジタル化できない、あるいはすべきではない業務もあります。
- 複雑な質問への丁寧な説明
- 高齢の方や障害のある方への対応
- 患者さんとのコミュニケーション
デジタルで置き換えるというよりは、人が価値を発揮する場面に時間をかけられるようにするという視点が重要です。
DXツールの導入を検討
業務フローの見直しと切り分けが完了したら、DXツールの導入を検討します。自院の課題を解決し、デジタル化したい業務を効率化できる適切なツールを選定しましょう。
例えば、電話予約の負担が大きいという課題があればWeb予約システムを、受付が混み合うのであれば自動受付機を、手入力によるミスが多いのであればWeb問診ツールを検討するなど、課題解決に直結するツールを選ぶことが大切です。導入にあたっては、各ツールの連携性も考慮することでより大きな効果が期待できます。
クリニックの受付業務効率化に貢献するツール

受付業務を支援するツールは多岐にわたります。導入にあたってはそれぞれどのようなツールなのかを正しく理解しておく必要があります。ここでは、受付業務の効率化に貢献する代表的なDXツールを、わかりやすく解説します。
Web予約システム
患者さんがパソコンやスマートフォンから、24時間いつでも予約を入れられるシステムです。患者さんは自分の都合のよいタイミングで予約できるため、利便性が向上します。
クリニック側にとっては電話対応の負担が減り、受付スタッフはほかの業務に集中できるようになります。電子カルテと連携し、予約情報が自動で取り込めるWeb予約システムを導入すると、より効率的な管理が可能です。
自動受付機や自動再来機
患者さんが診察券やQRコードをかざすだけで、受付手続きを自動で行うことができるシステムです。再診の患者さんはスタッフを介さずに受付を完了できるため、受付窓口の混雑緩和に貢献します。これにより、スタッフは初診患者さんへの対応や、複雑な手続きが必要な患者さんのサポートに集中できます。
Web問診ツール
患者さんが来院前に、自宅のパソコンやスマートフォンから問診票に回答できるツールです。来院後にタブレットで回答できるWeb問診ツールもあります。
記入された内容を電子カルテに取り込めるシステムを導入すれば、受付スタッフが手作業で転記する手間がなくなります。このため、入力ミスや確認漏れなどのヒューマンエラーの発生を減らすことができます。
呼び出しシステムやデジタルサイネージ
患者さんの呼び出しを、番号表示モニターやスマートフォンの通知で行うシステムです。患者さんのプライバシーを守りながらスムーズに診療室へ誘導でき、業務効率化に役立ちます。
また、デジタルサイネージ(電子看板)で待ち人数や診療状況を表示すれば、患者さんは自分の順番が来るまでの時間を落ち着いて過ごすことができるでしょう。
電子カルテ
電子カルテは、受付業務だけでなくクリニック全体のDXの中心となるツールです。紙のカルテを電子化し、患者さんの情報を一元管理することで、受付から診療、会計までの一連の流れをスムーズにします。
多くの電子カルテシステムは、レセプトや予約システム、問診ツールなどとの連携機能を備えています。これにより、患者さんの来院情報や診療内容が自動で反映されるなど、二重入力の手間や転記ミスを防ぎます。受付業務の大部分を効率化するための中核となるツールです。
自動精算機
自動精算機は会計業務の多くを自動化でき、釣り銭間違い防止といった会計業務の正確性向上、患者さんの待ち時間短縮に寄与します。
また、現金だけでなくクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済にも対応している製品が多く、患者さんの利便性向上にもつながります。
まとめ

クリニックの受付業務は、紙ベースの処理や多岐にわたる作業により多くの課題を抱えています。しかし、医療DXツールの戦略的な導入により、これらの課題を改善できる可能性があります。
受付業務の効率化でスタッフの負担が軽減されると、患者さん一人ひとりへより丁寧な対応ができるようになり、患者さんの満足度の向上につながります。
また、業務を効率化できると人件費の削減やスタッフの定着率向上にも寄与し、クリニックの経営全体にプラスの効果をもたらします。
重要なのは、人にしかできない業務により多くの時間を割けるような環境を整える、という意識を持つことです。自院の課題に合った適切なツールを導入し、スタッフと患者さんの双方にとって理想的なクリニック運営を実現しましょう。




